この記事では、Supabaseでのスキーマ設計について解説します。
🎯 なぜスキーマを分けるのか
PostgreSQLにはスキーマという概念があります。テーブルをグループ化する仕組みで、名前空間のように機能します。
スキーマの一般的な用途
スキーマは主に以下の目的で使われます。
- マルチテナント: 顧客ごとにスキーマを分けてデータを完全分離(エンタープライズSaaSで多い)
- アクセス制御: スキーマ単位で権限を設定し、ユーザーごとにアクセス範囲を制限
- 拡張機能の分離: pgvectorなどの拡張を専用スキーマに配置
多くのプロジェクトではpublicスキーマに全テーブルを置くのが一般的です。
個人プロダクトでの使い方
私が個人開発しているMemoreruでは、最初はすべてのテーブルをpublicスキーマに置いていました。しかし、テーブル数が増えてくると問題が出てきました。
publicスキーマの問題:
- テーブル数が増えると見通しが悪くなる
- どのテーブルがどの機能に属するか分かりにくい
- 権限管理が複雑になる
そこで、機能ごとにスキーマを分割することにしました。
app_プレフィックスの意図
スキーマ名にapp_というプレフィックスをつけているのには理由があります。
Supabaseにはauth、storage、realtimeなど、システムが使用するスキーマがあります。自分で作成したスキーマにapp_(applicationの略)をつけることで、「アプリケーション用のスキーマ」であることを示しつつ、Supabaseのシステムスキーマと明確に区別できます。pgAdminでスキーマを見たとき、並び順でapp_が先頭に来るため、自分で作ったスキーマだと一目で分かります。
Memoreruでは、Supabaseのシステムスキーマ(auth, storage等)は使用せず、すべて自作のスキーマで管理しています。将来的に別のインフラに移行する際のベンダーロックインを回避できることを考慮した設計です。
カスタムスキーマによる分割、app_プレフィックス、ベンダーロックインの回避は、あくまで私が独自に行っている工夫です。テーブル数が少ない小規模なサービスでは、スキーマ分割はオーバーヘッドになる可能性があります。中規模〜大規模のSaaSでテーブル数が多くなってきた場合に検討するとよいでしょう。
📂 スキーマ分割の設計
現在のMemoreruでは、以下のスキーマを使用しています。
| スキーマ名 | 責務 | 主なテーブル例 |
|---|---|---|
app_admin | 管理機能 | tenants, teams, members |
app_ai | AI機能 | embeddings, search_vectors |
app_auth | 認証 | users, sessions, accounts |
app_billing | 課金 | subscriptions, payment_history |
app_content | コンテンツ管理 | contents, pages, tables |
app_social | ソーシャル機能 | bookmarks, comments, reactions |
app_system | システム | activity_logs, system_logs |
分割の基準
スキーマ分割の基準として、以下を意識しています。
1. 機能の凝集度
関連するテーブルは同じスキーマに配置します。例えば、認証関連のテーブル(users, sessions, accounts)はapp_authに集約します。
2. 変更頻度
頻繁に変更が発生するテーブルと、安定しているテーブルを分けます。例えば、コンテンツ系は変更が多く、課金系は安定している傾向があります。
3. 権限の境界
異なる権限レベルが必要なテーブルは別スキーマにします。管理者のみがアクセスするapp_adminと、一般ユーザーがアクセスするapp_contentは分けています。
🔧 Drizzle ORMでのスキーマ定義
Memoreruでは、Drizzle ORMを使用しています。スキーマの定義は以下のように行います。
アプリケーション側のディレクトリ構成
DBのスキーマ構造に合わせて、アプリケーション側もディレクトリを分けています。
この構成により、どのテーブルがどのスキーマに属するか一目で分かります。
📊 正規化の実践
スキーマ分割と合わせて、正規化も重要です。個人開発でも基本的な正規化は守るべきですが、過度な正規化はパフォーマンスに影響します。
正規化の基本ルール
正規化には第1〜第3正規形がありますが、要点は以下の3つです。
- 第1正規形: 繰り返しを排除(カンマ区切りではなく中間テーブルで管理)
- 第2正規形: 部分関数従属を排除(主キーの一部にのみ依存するカラムを分離)
- 第3正規形: 推移的関数従属を排除(導出可能な値は保存せず計算)
個人プロダクトでの採用例
- 中間テーブルの活用: コンテンツとタグの多対多関係を中間テーブルで管理
- 複合主キーの採用: マルチテナント対応のため
(tenant_id, id)の複合主キーを採用 - 非正規化の採用: 読み取り最適化のため、ブックマーク数やコメント数をカウントカラムとして保持
🔐 RLS(Row Level Security)とスキーマ
スキーマ分割はRow Level Security(RLS)の設計とも関連します。RLSはPostgreSQLの機能で、テーブル単位で行レベルのアクセス制御を行います。スキーマごとに権限ポリシーを設計できます。
Memoreruでは現在、RLSではなくアプリケーション側でアクセス制御を行っていますが、将来的にRLSを導入する場合、スキーマ分割されていると権限設計がしやすくなります。
💡 実践Tips
カスタムスキーマへのアクセス設定
Supabaseでカスタムスキーマを使う場合、いくつかの設定が必要です。これを忘れるとハマります。
1. Supabaseダッシュボードでスキーマを公開
Project Settings → Data API → Exposed schemas に、使用するスキーマを追加します。設定場所がわかりづらく、私もよく忘れます。
詳細は公式ドキュメントを参照してください。
2. DATABASE_URLでスキーマを指定
DATABASE_URLのschemaパラメータにカスタムスキーマを含める必要があります。
3. Drizzle ORMのschemaFilterを設定
drizzle.config.tsでschemaFilterオプションを指定します。
これらを設定しないと「テーブルが見つからない」というエラーになります。
✅ まとめ
Memoreruでのスキーマ設計から得た学びをまとめます。
うまくいっていること:
- 機能ごとにスキーマを分けて責務を明確化
- ディレクトリ構成とスキーマ名を対応させて可読性向上
- 基本的な正規化を守りつつ、必要に応じて非正規化
注意が必要なこと:
- スキーマが増えすぎると逆に複雑になる
- Supabaseでカスタムスキーマを使う場合はExposed schemasの設定が必要
個人開発でもスキーマ設計を意識することで、将来の拡張性やメンテナンス性が大きく変わります。