荒らし行為対策のための権限設計とUX

要約
荒らし行為対策として権限を制限するとUXは低下し、UXを重視すると荒らしの余地が生まれる。本記事ではLINEグループの仕様変遷を例に、権限設計が持つトレードオフと、アプリの性質に応じた設計判断の重要性を考察する。
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はじめに

このテーマを考え始めたきっかけは、自分のアプリ開発において、荒らし行為対策として権限をできるだけ少なくする設計を採用していたことでした。
しかし実際に使ってみると、通常のユーザーにとって出来てほしい操作まで制限されていたり、不必要なステップが追加されていたりして、UXが明らかに悪化していることに気づきました。

荒らし行為を防ぐことと、一般ユーザーの使いやすさはどこまで両立できるのか。
この疑問を整理するために、ほとんどの人が日常的に使っている LINEグループ を例に、権限設計とUXのトレードオフについて考察していきます。


荒らし行為の定義

LINEグループの設計を考察する前に、本記事における**「荒らし行為」の定義**を明確にしておきます。
ここでいう荒らし行為とは、サイバーアタックや不正アクセスのような技術的な攻撃ではなく、ユーザーに与えられた権限の範囲内で行われる迷惑行為を指します。

グループチャットを例にすると、次のような行為が該当します。

  • 入りたくないグループに勝手に追加される
  • 必要なグループにもかかわらず、参加者全員を退出させられる

これらはいずれも仕様上は可能な操作であり、不正とは言い切れません。
しかし、受け手にとっては大きな負担や混乱を生む行為です。

本記事では、このような 「権限内で起きる荒らし行為」 を前提として、権限設計とUXの関係を考えていきます。


LINEグループの権限設計の変遷

正確な仕様の変化をすべて把握しているわけではありませんが、自分が中学生だった頃の記憶では、LINEグループの権限設計は現在とは大きく異なっていました

当時のLINEグループでは、

  • グループから他人を退出させる行為は、グループ作成者、またはその権限を委譲された一部のユーザーにのみ可能
  • 招待は送られますが、招待された側が承認して初めてグループに参加

という仕様だったと記憶しています。

一方で、現在のLINEグループでは、

  • 参加者であれば誰でも他人をグループから退出させることが可能
  • 招待された瞬間から自動的にグループへ参加

という、より自由度の高い設計へと変化しています。

以降では、この権限設計の変遷を前提として、荒らし行為への耐性一般ユーザーのUXという2つの観点から考えていきます。


昔の設計と今の設計の比較

昔の設計

昔のLINEグループの設計では、他人を勝手に退出させることや、不本意なグループに強制的に参加させることはできませんでした。
そのため、荒らし行為が起きにくい設計だったと言えます。

一方で、一般的なユーザーにとっては不便な側面もありました。

  • 本当に退出させたい参加者がいても、対応できるのは限られた権限を持つユーザーのみ
  • 参加が分かっている相手に対しても、承認を待つ必要がある

その結果、日常的な利用シーンではUXが低下してしまう場面がありました。

今の設計

現在のLINEグループの設計では、参加者であれば誰でも他人を退出させることができ、招待された瞬間から自動的にグループへ参加します。
これにより、日常的な利用における自由度は大きく向上しました。

一方で、

  • 参加者全員を退出させる
  • 不本意なグループに強制的に参加させる

といった、荒らし行為が起こりやすくなる余地も生まれています。

つまり、昔の設計と今の設計は、
荒らし行為への耐性と一般的な操作のUXの間にあるトレードオフだと言えます。


どちらの設計が優れているのか

では、どちらの設計が優れているのでしょうか。
結論として、この問いに単純な正解はありません

荒らし行為もまたUXの低下の一種であり、その対策のために一般的な操作のUXが損なわれたとしても、必ずしも悪とは言えません。
重要なのは、アプリの性質を踏まえて判断することです。

LINEが現在のような設計に至った背景には、
**「知り合い同士で使うクローズドなチャット」**という前提が大きく影響していると考えられます。
知り合い同士の環境では荒らし行為は起きにくく、その分UXを重視した設計が成立しやすいからです。

一方で、知らない人同士が参加するオープンなグループチャットでは、
荒らし行為が起きることを前提とした、より厳格な権限設計が必要になるでしょう。


まとめ

荒らし行為対策とUXは、常にトレードオフの関係にあります。
どちらかを完全に排除することはできません。

重要なのは、どのような前提で使われるアプリなのかを見極め、その前提に合った権限設計を選ぶことです。
権限設計とは、荒らし行為とUXのどちらをどこまで許容するかという、設計者の意思決定そのものだと考えています。

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