進捗駆動開発(PDD)のすすめ:AIエージェントと進める個人開発

要約
AIエージェントと協働する中で続けてきた進捗管理を整理して「Progress-Driven Development(PDD)」と定義しました。機能×ステップのマトリクスで「どこまで終わったか」を可視化し、次に何をすべきかを明確にする手法です。
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この記事では、AIエージェントと協働するための開発手法「進捗駆動開発(PDD)」を紹介します。

「進捗駆動開発(PDD)」は、この記事で紹介するために筆者が考案した言葉・考え方です。10年以上のPM・PdM経験の中で様々な進捗管理ツールや手法を試してきましたが、AIエージェントと協働する開発スタイルに合った進捗管理の方法を模索する中で、この手法にたどり着きました。

💡 進捗駆動開発とは

進捗駆動開発(PDD: Progress-Driven Development)は、開発プロセス全体を構造化し、各ステップの完了条件を明確化することで、人間とAIが協調して効率的に開発を進める手法です。

個人開発での課題

個人開発を続けていると、このような課題に直面することはないでしょうか。

  • 「あの機能、どこまで作ったっけ?」と思い出せない
  • 久しぶりに再開すると、次に何をすべきか分からない
  • 全体の何割くらい完成しているのか、把握できていない

仕様駆動開発(SDD: Spec-Driven Development)は、仕様ドキュメントをSSoT(Single Source of Truth)として、それに基づいて設計・実装を進める手法です。テスト駆動開発(TDD: Test-Driven Development)は、失敗するテストを書き(Red)、テストを通す実装をし(Green)、リファクタリングする(Refactor)という短いサイクルを繰り返す手法です。

これらは「何を作るか」「どう作るか」に焦点を当てた手法であり、「どこまでできているか」を把握するには別の仕組みが必要です。

参考ドキュメント

PDDの位置づけ

PDDは、SDDやTDDを否定するものではありません。それらを補完し、進捗管理の視点を加えた手法です。

開発を複数のステップに分解し、それぞれの完了条件を明確にすることで、「今どこまでできているか」が一目で分かるようになります。

SDD/TDDとの比較

手法焦点成果物サイクル
SDD仕様の明確化仕様ドキュメント仕様→設計→実装
TDDコード品質テストコードテスト→実装→リファクタ
PDD進捗の可視化進捗マトリクス確認→実装→スキャン→レビュー

TDDが開発者のための手法であるとすれば、PDDはマネジメントのための手法といえます。これらは排他的ではなく、組み合わせて使うことができます。

チーム開発への応用

この手法は個人開発向けに考案しましたが、チーム開発にも応用できます。PDDの進捗表は、エンジニア以外のメンバーにもそのまま見せられるからです。

手法成果物の可読性進捗の可視化ステークホルダー共有
SDD仕様書(誰でも読める)充足度(進捗が見えにくい)容易
TDDテストコード(技術者向け)pass/fail(進捗が見えにくい)説明が必要
PDD進捗表(誰でも読める)マトリクス表示(進捗が分かりやすい)容易

🔢 機能×ステップのマトリクス

PDDの特徴は、機能(縦軸)×ステップ(横軸) のマトリクスで進捗を管理することです。

ステップの定義

私のプロジェクトでは、各機能を以下の10段階で管理しています。10段階にしているのは、進捗率を10%刻みで計算できて分かりやすいからです(10% × 10ステップ = 100%)。

#ステップ内容担当
01spec仕様(要件定義)AI/人間
02design設計(API設計、DB設計等)AI/人間
03databaseスキーマ・マイグレーションAI
04ui画面・コンポーネントAI
05apiAPIエンドポイントAI
06usecaseビジネスロジックAI
07repositoryデータアクセス層AI
08unit-testユニットテストAI
09guideユーザーガイドAI
10review総合レビュー人間

ステップの数や内容は、プロダクトに応じて自由に設計して構いません。私のプロダクトはユーザーガイドが必要なためguideを入れていますが、不要であれば省略できます。5段階や8段階でも問題ありません。大事なのは「何をもって完了とするか」を明確にすることです。

私の場合、01-specと02-designは人間とAIが協力して作成し、03〜09はAIが実装を担当します。最後の10-reviewは人間が最終確認を行います。

ステータスの定義

私のプロジェクトでは、各セルに5段階のステータスを設定しています。

ステータス記号進捗意味
none[n]0%未着手
started[s]25%着手
draft[d]50%仮完成
reviewed[r]75%レビュー済み
done[x]100%完了

ステータスの段階数や名称も、プロジェクトに応じて自由に設計できます。シンプルに「未着手/進行中/完了」の3段階でも問題ありません。

🧩 進捗管理の仕組み

私のプロジェクトでは、進捗管理に必要なファイルをdocs/progress/に配置しています。これらはClaude Codeに相談しながら作成しました。以下のようなプロンプトで依頼できます。

最初から完璧なものを作る必要はありません。使いながら改善していけば大丈夫です。以下、私が実際に使っている構成を紹介します。

ディレクトリ構成

1. 各機能の進捗管理

各機能の進捗は、JSONファイルで管理します。

ポイント:

  • files: そのステップで作成したファイルを記録(自動スキャンで更新)
  • reviewed: ファイル単位でレビュー済みかどうかを追跡
  • note: 補足情報やTODOを記録
  • na: そのステップが不要な場合

2. 各ステップの成果物一覧

steps/ディレクトリには、各ステップの成果物(ファイルパス)をまとめたJSONを置いています。

私のプロジェクトでは、設計ドキュメント(_design.md)を実装ファイルの近くに配置しています。こうすることで、AIエージェントが実装時に設計を参照しやすくなります。一方、人間がレビューするときは設計ドキュメントが各所に散らばっていて探しにくくなります。そこでsteps/に一覧をまとめておくことで、人間もAIエージェントもスムーズに開発を進められます。

VS Codeの拡張機能「Open File From Path」と組み合わせると、JSONファイル内のパスにカーソルを置いてショートカットキー(alt+d)を押すだけで、該当ファイルに直接ジャンプできます。「設計ドキュメントを確認したい」「ユニットテストの一覧を見たい」といったときに便利です。

3. 完了条件チェックリスト

各ステップには、完了条件をチェックリストで定義しています。このチェックリストがあることで、AIは「次に何をすべきか」を自己判断できます。

04-ui(画面)の例:

10-review(総合レビュー)の例:

🎮 進捗管理用コマンド

進捗管理用にCLIツール pdd を用意しています。TypeScriptで実装し、docs/progress/scripts/pdd.ts に配置しています。

コマンド役割
pdd scanファイル存在に基づいてステータスを自動更新
pdd status進捗をターミナルに表示

CLIで管理するメリットは、進捗管理ツールなどの外部サービス連携が不要でローカル完結できることです。進捗データはJSONファイルとしてリポジトリに含まれるため、Gitで履歴管理もできます。実装はシンプルで、JSONファイルの読み書きとディレクトリ走査だけです。お好みの言語やツールで実装できます。

自動スキャン

ソースコードを走査し、進捗ファイルのステータスを自動更新します。

動作:

  1. ソースコードのディレクトリを走査
  2. 各機能に対応するファイルの存在を確認
  3. ファイルが存在すれば done、なければ none に自動更新
  4. 手動で設定したステータスは上書きしない(draftstartedは維持)

実装後にこのコマンドを実行することで、進捗が自動的に反映されます。

進捗表示

進捗ファイルを読み込み、進捗を表示します。

サマリー表示:

まず全体の進捗サマリーを表示します。

「全体の70%が完了」「テストが遅れている」「レビューはまだ未着手」といった状況が一目で分かります。

マトリクス表示:

続いて、機能ごとの詳細をマトリクス形式で表示します。

私の環境では、ターミナルで色分けして表示するようにしています(緑=80%以上、黄=50%以上、赤=50%未満)。

🚀 開発の進め方

日々のワークフロー

私の日々の開発フローは以下の通りです。

1. 進捗確認

全体の進捗率と、どこが遅れているかを確認します。

2. AIへの指示

AIはチェックリストを見て、何をすべきか自己判断できます。

3. 自動スキャン

新しく作成されたファイルを検出し、ステータスを自動更新します。

4. レビュー
実際に動作確認し、問題なければ 10-reviewdone に更新します。

この繰り返しで、「次に何をすべきか」に迷うことなく開発を継続できます。

並行開発との組み合わせ

PDDは、Git Worktreeによる並行開発と組み合わせることで、さらに効率的になります。

Worktree担当ステップ担当範囲
spec-design01-spec, 02-design仕様・設計ドキュメント
database03-databaseスキーマ・マイグレーション
frontend04-ui画面・コンポーネント
backend05-api, 06-usecase, 07-repositoryサーバーサイド実装
unit-test08-unit-testテストコード
guide09-guideガイド・シードデータ
develop10-review統合、最終レビュー

各Worktreeで別々のAIエージェントが並行して作業し、developブランチで統合します。

マージ順序(依存関係を考慮):

依存関係を考慮した順序でマージすることで、コンフリクトを最小限に抑えられます。

チーム開発の場合、進捗の確認は全員で行い、進捗ファイルの更新はコンフリクトを避けるために管理者がまとめて行うとよいでしょう。

✅ まとめ

進捗駆動開発(PDD)について紹介しました。

ポイント内容
位置づけSDD/TDDに進捗管理の視点を追加
マトリクス管理機能×ステップで進捗を可視化
進捗管理の仕組みJSON + チェックリスト + 自動スキャン
役割分担仕様・設計は協力、実装はAI、レビューは人間
並行開発Git Worktreeで複数AIが同時作業

PDDは、AIエージェントの能力を最大限に活用しながら、人間が最終品質を保証する手法です。進捗を可視化することで「次に何をすべきか」が明確になり、個人開発の継続を助けてくれます。チーム開発への応用も可能です。

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